137:百年ライスカレー

今から約20年前。創業130年を迎えた2003年に、一つのメニューを復刻させました。
それが「百年ライスカレー」です。


かつてのメニューを辿ると、カレーは1904年(明治37年)に登場し、以降は昭和30年代頃までコース料理の中でも時折カレーをご提供していたようです。
130周年の復刻では、蔵に眠っていた大正期のレシピをもとにしています。

復刻当時の料理長・中西健一のインタービューにはこのようにあります。

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「最初はレシピ集の分量通りに今の材料で作ってみたのですが、実際のところ粉っぽくて食べられたものではありませんでした。ルー、つまりとろみ付けに使う小麦粉の量がけた外れに多いんです。いくら昔のレシピを再現すると言っても、今のお客様に召し上がっていただけないようなものでは意味がありません。また当時と今と、小麦粉の性質も同じとは思えません。そこで、正直申し上げましてルーの部分、つまりとろみ付けに使う小麦粉の分量だけは、現在の味覚に照らして違和感のないように手を加えています。しかし、それ以外の量目には一切手を加えていません。すべてオリジナルそのままの材料と分量です。
では、オリジナルの分量で素直に作るとどうなるかと申しますと、これまたとんでもない味になってしまって、とても食べられたものではありません。
(中略)
そこで、分量を守りながら味を出す工夫をするわけです。量目が同じまま味を濃くするわけですから、エキス分が多ければ良いわけですね。このためにブイヨンを煮詰めます。煮詰めては伸ばし、煮詰めては伸ばしして、5リットルで必要なコクが出るように調整するわけです。他にも玉葱の炒め方をどの位にするのが良いかなど、決まった材料を決まった分量だけ使って美味しくするためにはどうしたら良いか、試行錯誤の連続でした。
(中略)
こうして何とか味は決まりましたが、まだ一つだけやっかいな問題があります。それは、決まった材料を決まった分量だけ使って決まった手順で仕込んだとして、カレーの場合、決して同じ味にはならないと言うことです。
材料の組み合わせで複雑な味のハーモニーを醸し出す、それがカレーです。農産物である素材の味にはぶれがありますよね。だから、作るたびにどうしても同じ味にはならないんです。そこで、いつも同じ味になるように、毎回微調整を行って仕上げなければなりません。昔の分量を守って使って現在通用する味を出す工夫に加えて、最後に必ず微調整。ここが百年ライスカレーのポイントです。
こう言う部分がレシピには書けない、いわば秘伝みたいなことになるんじゃないでしょうか。」

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当時の苦労が偲ばれるとともに、最後の「微調整」の件は料理やカレーに限らず、様々な「つくる」場面において重要なことのようにも思われます。

往時のカレーの味と共に、今から20年前の復刻の際にこのようなエピソードがあったことも、現在ご提供しているカレーの味に、実は溶け込んでおります。


●現在もランチにてご提供の他、夜のルームサービスでもお召し上がりいただけます。
https://www.kanayahotel.co.jp/nkh/restaurant/


【関連項目】

102:蔵


78:古いメニュー
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120:金谷 時のプリン
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95:金谷のオムレツ
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94:古いソースパン
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83:初期の料理場
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81:ディナー前のメインダイニング
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67:金谷スタイル
金谷スタイル

45:畜産部
畜産部

44:大正コロケット
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43:料理場のゲストボード
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22:コンソメスープ
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